刺青物語
中学生の時にグリーデイと出会って洋楽ばかり聴いていた僕はミュージシャンの風貌に憧れて、いつか刺青を入れることが当たり前だと思っていた。
高校に入る頃にはその気持ちが益々強くなり刺青を入れるにはどうしたら良いか調べてみた。
刺青を入れるスタジオは都内にたくさんあり、たいがいが20歳以上からとなっていた。
その中で高円寺にあるところが18歳からとなっていたのでそこにしようと考えた。
高校3年生の三学期をほとんど札幌で過ごした僕は卒業式に出るために東京へ戻った。
18歳からという条件に加え親の同意書が必要だったのでそこは母親に書いてもらい予約をした。
予約をしてからは入れる場所やデザインの打ち合わせをメールでやりとりしていた。
デザインに関しては自分の誕生日である「29」は外せなかったので、数字の周りの装飾を含め自分でまずは描いてみた。
イメージの画像をFAXで送ると「細かすぎる」と早速ダメ出しをされて少しばかりがっかりしたのを覚えている。
予約当日
電話で場所を聞いてそれをメモに地図を書いて向かう。
駅から10分くらい住宅地をさまよい到着した。
想像と違いそこは一軒家で受付の人だと思っていた人が刺青を入れてくれる人だった。
その人が女性だったため安心する。
少し話をして腕に入れることにしたので上着を脱ぎベッドへ横になる。
色は単色黒のみ
施術は1時間もかからなかったかも知れない。
入れている間僕の頭の中ではグリーデイの曲が流れていたけど、部屋ではずっとブライアンセッツァーオーケストラが流れていた。
痛いと言えば痛い
でも「これなら耐えらるな」というくらい。
どちらかと言うとムズムズ痒い腕を気にしながら帰宅する。
分かりづらいかも知れないけど刺青は献血やジャンクフードに似ている。
ある日ふと思い出してまた入れたくなるのだ。
そのある日というのはやはり転換期である20歳の時で僕は原宿にいた。
最近献血していないな、とか
最近ハンバーガーを食べていないな、くらいの気持ちで急に刺青を増やしたくなった。
竹下通りに入ってすぐの場所にスタジオの看板を見つけたのでそこに入る。
一階がマクドナルドなので衝動的な建物だ。
あまり時間もないのですぐにデザインを花に決めて、指に入れてもらい、3000円を払って出た。
きっとマクドナルドでゆっくりハンバーガーを食べるより速かったかも知れない。
3つ目
15歳で神戸の魅力を知った僕は仕事やプライベートでもよく関西へ行き神戸、大阪、京都をフラフラしていた。
その日はアメリカ村にいる時にスイッチが入った。
どこかのビルのどこかの部屋。
マンションの一室に入りデザインを決める。
若いお兄さんと話をして左胸のあたりに蜘蛛を入れることに。
そこまで決まると若いお兄さんは奥に行き誰かに話しかけて呼んでいるようだった。
そして奥からは「職人さんかな?」と思うようなおじいさんが出てきた。
あ、この人が入れるんだ。
「きっと凄い腕の持ち主なんだ」と思うしかなく身を任せた。
おじいさんの手は笑ってはいけないくらいプルプルと震えており完成した蜘蛛はどこか下手くそだった。
4つ目
アメリカ村の観光中にスタジオを見つけて
手首に蝶を入れてもらう
初めてのカラーで場所も大きなところだったのでこの時のが一番金額が高かった。
5つ目
吉祥寺で入れてみたいなと思い立って
腕の29の下にBLISSと入れた。
MUSEの曲名を入れたくて、思いついたのがBLISSだった。
6つ目
友達たちと渋谷のダーツバーで盛り上がったあと酔った勢いで指に入れる。
デザインはその場に居合わせた友達にお化けモチーフで、と描いてもらいそのまま入れた。
とても気に入ったデザイン。
それから5年後
家庭の事情というやつで指と腕の刺青は皮膚の手術により消えることに。
衝動に耐えて、今はまた増やすことだけを考えている。